その分現金でくださいよ。

他人の好意を台無しにするブログ

スパイ教室

 

 挿絵担当の方のTwitterをフォローしているのでやたらと情報が流れてきて、面白そうだなと思い購入してから1ヶ月くらい本棚で寝かしてあったんですけど、とある友人から「感想お願いします」と言われ、休日やることもないので一気に読みました。

誰がとは言わないし、何にとも言わないですが「出てる」のであれば他人の感想を読む前に自分で読んだ方がいいのでは???と思わないこともないですが…。

 

「世界最強のスパイ」クラウスが、スパイ養成学校で「落ちこぼれ」に甘んじていた少女たちを集めて死亡率9割とも言われる「不可能任務」を達成するというストーリー。

 

スパイを生業とする少女たちを描く作品といえば先日観たアニメ『プリンセス・プリンシパル』との共通点が多い舞台設定だな、と思ったのですが、1話時点でほとんどのキャラがスパイ技能に関しては完成形にあったあちらと比べて、今作は養成学校の不適合者がチームとして集められているため、キャラクターの変化や成長要素が重点的に描かれている印象を受けました。

ln-news.com

…って思いながら作者のインタビュー記事読んでたら直球で『プリンセス・プリンシパル』の影響を公言してましたね。

ついでに作者の竹町先生、東野圭吾伊坂幸太郎の作品が好きなの共感しかない。中高生の頃この2人の作品ばっかり読んでいたのを思い出します。

ユーモアに富んだ軽妙な会話や些細な描写が終盤で大きな意味を持つ展開、確かに伊坂作品に通じるものがありますね。

 

メインキャラクターの少女たちは数が多い上にまだ2巻までしか刊行されていないので掘り下げられていないキャラも多いのですが、少なくとも1巻と2巻の副題になっているリリィとグレーテに関してはキャラクターとしての面白さがしっかり描かれていたと思います。

1巻で描かれたのはお調子ものでドジっ子だけど秘めた意志の強さと行動力を持っているリリィ。僕はこういう野上良太郎を彷彿とさせる芯が強いキャラクターがめちゃくちゃ好きなのでハマってしまいました。2巻では変装を得意とする少女、グレーテの悲しい過去と恋慕について描かれ、割とありがちな設定ではあるけれど任務の騙し合いに絡めた上手い演出がなされていて、共感度が高かったです。ドラマとしては1巻以上に盛り上がったかな。

ちなみに2巻の表紙に描かれている女の子はグレーテではないです。詐欺か?*1

 

そして何より彼女たちのボスであるクラウスのキャラクター像がめちゃくちゃ魅力的でした。

世界最強のスパイでありながら、究極の感覚型天才であるため生徒となった少女たちに的確なアドバイスができない、言ってしまえば教師としての能力がないというのが面白いところ。それでも彼女たちには教え子として、家族として深い愛情と信頼を抱いていて、その「家族」を失う恐怖が唯一の弱点…。

って要素盛りすぎじゃないですか?

僕が女オタクだったら一瞬で落ちてましたね。いや男でも惚れるわこんなん。

 

ストーリーの骨子であるスパイ同士の戦い、騙し合いも読みごたえがありました。

(少なくとも1,2巻では)少女たちが相対するのは自分よりも格上のスパイであり、1対1の正面戦闘では勝てないのでチームを組んでの知略戦がメインになるから、先の読めない騙し合いが展開されて面白い。上のインタビューで作者が「エンタメで描く騙し合い」という表現をしていましたがまさにその言い回しがしっくりくる。「えっそれでうまくいくの」みたいな粗さもありますが、本筋の面白さと勢いでそれをかき消してしまう分の魅力はあると思います。大事なのは細かい整合性より読者を乗せられるかどうか。

1冊分まるまるかけた仕込みで最後に会心の一撃を食らわせるような仕掛けもあって、小説というメディアならではの爽快感を感じさせてくれる作品でした。

 

僕が「面白そうだな」と思って手に取る作品は要するに世界観だったりあらすじだったりが自分の好みに合いそうだな、という程度でしかないので、実際に触れてみるとあんまり内容が伴ってないな…と思ってしまう作品も多いのですが(ハードル上げすぎとも言う)、本作は割と期待していた通りの内容で満足度が高い作品でした。

プリンセス・プリンシパル』好きな人ならたぶん気に入るんじゃないでしょうか👀☀️

まだスポットが当たっていないキャラクターも多いですし、8月には3巻も刊行される予定なので、今後も読み進めていこうかと思います。

 

最後にアドバイスですが、1巻の最初に折り込まれているイラストを見てしまうと本編での描写との食い違いに一発で気付いてしまうので、読み終わってからイラストを開いたほうがいいと思います。

 

おしまい。

*1:片方が変装なのかもしれませんが