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他人の好意を台無しにするブログ

われら

 

われら (光文社古典新訳文庫)

われら (光文社古典新訳文庫)

 

 いまから約1000年後、地球全土を支配下に収めた〈単一国〉では、食事から性行為まで、各人の行動はすべて〈時間タブレット〉により合理的に管理されている。その国家的偉業となる宇宙船〈インテグラル〉の建造技師Д(デー)―503は、古代の風習に傾倒する女I―330に執拗に誘惑され……。

1920年に発表されたディストピアSF小説。合理主義や全体主義の行きつく先の危うさを描く、この手の作品の原点とも言えるもので、個人が社会の資源でしかないという考え方や性行為まで管理されてる設定など、後の作品であったなあ…と思ったりすることも度々あり、これが100年前に刊行されたのは凄いなあと思わされました。

本作が書かれたのはスターリニズムの台頭よりも前であり、予言的な作品と言われるのもうなずける。

ただ、主人公Дの個人的な記録という体裁を取っているからか、レトリックが多すぎて何を言っているのか、何が起きているのか分からない部分が多いのもまた事実で…。

最後の章は主人公が想像力摘出手術(どんな手術だよ)を受けさせられた後で、今までの自分の記録の表現を一蹴して、ただ事実だけを淡々と述べる文体に変化してしまったのは面白かったけど、それまで約350ページ分読みづらい曖昧な表現に付き合ってきた分に見合うかと言われると…。

文体の変化それ自体が表現になってるのは昔読んだ『アルジャーノンに花束を』を思い出して結構おおってなったんですけどね。あれも読み直したいな。