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他人の好意を台無しにするブログ

映画大好きポンポさん

劇場アニメ『映画大好きポンポさん』公式サイト
pompo-the-cinephile.com

敏腕映画プロデューサー・ポンポさんのもとで製作アシスタントをしているジーン。映画に心を奪われた彼は、観た映画をすべて記憶している映画通だ。映画を撮ることにも憧れていたが、自分には無理だと卑屈になる毎日。だが、ポンポさんに15秒CMの制作を任され、映画づくりに没頭する楽しさを知るのだった。 ある日、ジーンはポンポさんから次に制作する映画『MEISTER』の脚本を渡される。伝説の俳優の復帰作にして、頭がしびれるほど興奮する内容。大ヒットを確信するが……なんと、監督に指名されたのはCMが評価されたジーンだった! ポンポさんの目利きにかなった新人女優をヒロインに迎え、波瀾万丈の撮影が始まろうとしていた。

飼っている猫が可愛すぎるのでその写真目的にインスタをフォローしている某女性声優がしきりに告知していた作品。僕もまぁ人並みには映画好きなので目を引くタイトルだったし、面白そうだなと思って観に行きました。

友人はTLで絶賛されていた…と言っていたけど僕のフォロワーはあんまり話題にしていなかったような…。みんなそんなに映画好きじゃないのかな?

 

社会不適合者の映画オタク、ジーンが実質主人公で、タイトルロールのポンポさんは狂言回し、といった感じでした。

序盤はアルプスでいい画を撮って、ハプニングも上手く使ったり、撮影チームのアイデアを活かしてまたいい画を撮って…とトントン拍子にストーリーが進んでいく。

 

この辺までは普通の作品作りアニメかな…という印象でした。アルプスで撮影されたカットがいちいち美麗かつ構図がまさに映画、というのは印象的でしたが。雨の中泥を投げ合って地面に転がるシーンなんかアニメではなかなか見ない絵だったな…。あと主人公のスマホの待ち受けが『タクシードライバー』の主人公なのはちょっと笑った。

 

中盤以降、作品のフォーカスが「編集」という作業に当たっていくのが本作の思い切った特徴かつ、めちゃくちゃに面白いなと思った部分。

 

この手の作品で「制作の苦しい部分」を描くのはほぼマストだけど、「アイデアが出てこない」「外的要因からくるトラブルへの対応」「納期」あたりがよくあるパターン(そして大体『SHIROBAKO』でやっている)だと思います。一方で今作はジーンが、72時間のフィルムを1本の映画にする、つまり70時間以上は切り捨てないといけない作業と対面する。その72時間にどれだけのエネルギーやチームのアイデアが注ぎ込まれたか、どんな意図で撮影したのか誰よりも知っているからこそ、編集作業が自分で自分の身を切るような苦しみになる。

このアプローチで「産みの苦しみ」を表現するのは面白いな、と思いました。

序盤の「他人の作った映像を編集する」場面と対比されてるのも上手い。

 

ペーターゼンさんとの対話を通して「なぜ映画が好きなのか」「自分にとって映画は何なのか」という問いに向き合い、答えを見つけたジーン、編集作業そのもの、そして劇中作『MEISTER』の主人公・ダルベールがリンクしていく後半のカタルシスが凄まじくて感情を揺さぶられっぱなしでした。

一番大切なもののために全てを切り捨てる覚悟と狂気…めちゃくちゃ『セッション』を思い出した。*1

自分はどちらかというと映画を俯瞰的に観ているというか、自分と違う世界で、自分と違う考え方で動く登場人物の生き様に触れるのが好きで作品に触れている部分が大きいので、あまりキャラクターに自分を映すことはない*2から少しジーンとは映画に対する捉え方が違うけれど、エゴを突き詰めて作り出したはずの作品がどこかの誰かの心の奥にブッ刺さる、というのは凄く共感できる。

序盤にコンラッド監督が八方美人のボヤけた映画にならないようジーンにアドバイスしていたのも含めて、そこが一番のメッセージなのかな、と。

万人に優しい作品(オブラート)が良いとされる昨今の風潮にはどんどん一石を投じていきましょう。

 

ジーン以外のキャラも魅力的で、まず見た目完全に幼女なのに中身はしっかりプロの仕事してるポンポさん。追加撮影を頼むジーンに対し、あくまで冷静にプロとしての現実を伝えるけど内心ではクリエイターとしての成長を喜んでいるシーンはめちゃくちゃ好きです。

ナタリーも声優初挑戦の女優が声を当てているというのが上手く作用しているな、と思いました。

原作にいないキャラ(らしい)のアラン君が特に印象的で、彼みたいな一見満ち足りたリア充だけど実は空虚を抱えてる…みたいな奴が熱くなれるものを見つける展開が大好きなんですよね。会議の内容をネットで配信するのはダメだと思うけど…。

あとミスティアさんは加隈亜衣エロい役やってんな…くらいの印象でしたが、鑑賞後に公式サイトで各キャラに設定されている好きな映画を眺めてたら全部イザベル・アジャーニの出演作で好感度が爆上がりしました。マーティンがマーロン・ブランドなのはすぐわかったけど、ミスティアイザベル・アジャーニがモデルなのかな…。イザベル・アジャーニの色気が半端ないのは間違いないですが。出演作のDVD買ったっきりのやつもあるし、また観たくなってきたな。

 

ニュー・シネマ・パラダイス』の話が作中出てくるけれど、映画そのものと共に歩むトトの人生を描いたあちらから更に一歩踏み込んで、「映画を作ること」と向き合う人々の全身全霊を描いた、映画愛にあふれる素晴らしい作品でした。映画だけじゃなく、何かしらの作品を愛している人であれば心打たれる作品になっていると思います。

同時に映像としてのクオリティも高かった。前半のニャリウッドやアルプスの風景も勿論だけど、編集作業というどうしても絵面が地味になりそうなところを、フィルムを切り刻むという演出で視覚的にも盛り上げていったのが凄い。

そして、この作品の好きなところは、なんといっても90分で終わるところですかね。

 

ちなみに、本作では各キャラクターに好きな映画が3作設定されていて、パンフレットではキャストやスタッフも各々好きな映画を3作挙げていました。

それに乗っかってオタクも勝手に好きな映画を3作挙げる流れになっているようなので考えてみたのですが、

ショーシャンクの空に

ブラック・スワン

アラビアのロレンス

かな、と。正直3作選べと言われると難しいですが、この辺は現在の僕にかなり影響を与えた作品だと思います。そして自分の思考や価値観に影響を与えるような作品を好きになりがち。

 

アラビアのロレンス』なんて4時間近くあるし、ポンポさんにはダメって言われちゃいそうですね。面白いのに…。まぁ2時間を越えると集中に限界が来るって言うのは凄くわかります*3

ブラック・スワン』は芸術に熱中するあまりの狂気を描いた作品という点で本作や『セッション』に通ずるものがあると思うし、実際『セッション』もめちゃくちゃ好きなので悩んだのですが、まぁナタリー・ポートマンブーストということで…

『ショーシャンク』は説明不要ですね。

 

おしまい。

 

 

*1:パンフを読んだら監督が「映画製作版の『セッションに』したいって言っていたらしい。なるほどね

*2:全くないとは言っていない

*3:特に自宅で映画を観ているとき