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他人の好意を台無しにするブログ

BANANA FISH



7話くらいまで観て途切れてしまっていたままだった作品。
Twitterノイタミナの好きな作品を投票する企画で、この作品を選んでいる人が多いような気がしたので良い機会だと思って観直してみることに。こういうとき配信サイトは便利ですよね。

あらすじ
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ニューヨーク。並外れて整った容姿と、卓越した戦闘力を持つ少年・アッシュ・リンクスは、17歳にしてストリート・ギャングをまとめ上げていた。
ある夜、アッシュは自身の手下によって銃撃された男からある住所とともに「バナナフィッシュ」という言葉を伝えられる。
それは廃人同然の兄・グリフィンがしばしば口にする言葉だった。
時を同じくして、カメラマンのアシスタントとしてやってきた日本人の少年・奥村英二と出会う。
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1クール目は「こんなんアニメでやるんか…」ってくらいの悲惨なシーンがバンバン展開されて普通につらい(まぁ僕はこういう話が好きなのですが)。特にショーター・ウォンが家族を盾に脅迫されアッシュや英二を裏切ってしまってからの流れは凄まじいものでした。
ショーターというキャラクターの情の篤さや、アッシュだけでなく英二にも確かな友情を抱いていたことをしっかり描いており、彼のキャラクターとしての好感度をマックスまで上げてからの展開だったので観ている側も劇中の登場人物に負けないくらい辛かったです。アッシュ役・内田雄馬さんの声を絞り出すような演技も息を呑むようなものでした。
本当に悲痛なシーンなんだけど、今作でひとつお気に入りのシーンを選ぶとしたらここ。棒高跳びを目の当たりにしたアッシュが象徴的に英二が「自由」であることを実感する序盤のシーンも良かったので迷ってしまいますが。

2クール目はほとんど名ありの味方キャラが死ぬこともなくなり、コメディチックな描写も増えていく。
ストーリー展開も英二かアッシュが捕まってピンチなのを助ける、が1クール目からずっと続いていて、ぶっちゃけマンネリ化は否定できないような気がします。
サブマシンガンで撃たれてもヘリから機関銃ぶちまけられてもかすりもしないアッシュや、そのアッシュが手も足も出ない上にインチキみたいな射撃の精度を誇るブランカの登場など、サスペンス・アクションものとしてはガバガバに片足突っ込んでいるのは否めない。

メインの謎であった「バナナフィッシュ」に対しても1クール目でほとんど答えは出てましたし、正直1クール目終わった後はこれから何するんだって思いもありました。

だから2クール目が面白くないかといえばそんなことは全くなくて、2クール目はアッシュ・リンクスという「圧倒的な個性」に出会って「しまった」人物たちの感情のぶつかり合いを楽しむ話なのかな、と考えています。
特に1クール目はただのヤバいホモなのかなって思っていたディノ・ゴルツィネがアッシュに対して向けているのは憎しみや性的玩具としての目だけではなく、愛情(明らかに歪んでいますが)や一種の敬意といった感情も確かに存在していることが分かってきたのは面白かったです。アッシュが他人の手に落ちようとしているときには手助けし、諦観や自らを貶めるようなことがあれば失望の色を隠さない。
2クール目でかなり印象が変わったキャラクターです。

ゴルツィネだけでなく、オーサー、月龍、シンなど多くのキャラがアッシュという圧倒的な才能に対してそれぞれ違った感情を抱いており、それが彼らを非合理な選択に導いてしまう(そしてだいたい身を滅ぼす)。明らかにアッシュ・リンクスのせいで人生狂っている。
当のアッシュは自身の才能とそれによって得られるものを嫌悪しており、「自由」を求めている。
あらゆるものを手に入れる資質を持ちながら本質的には孤独な人物であり、その孤独をなんの見返りも求めることなく埋めてくれたのが英二だから、英二はアッシュにとってかけがえのない存在になった。
そして月龍なんかは、本質的に自分と同質の存在なのに英二という安らぎを得たアッシュが許せない。

まぁ下品な言葉でまとめるとめんどくさいホモしかいないってことなんですけど、アッシュを中心とした登場人物の感情ベクトルのぶつかり合いは、2クール目の大きな魅力だと思いました。あと英二が精神的にどんどんタフになっているのも伝わってきたのも好感度高いです。元々メンタル的な強さの片鱗はあるキャラクターでしたが、アッシュの弱点で終わるのではなく、アッシュを助けるために自分が前に出ることができる男に成長していったのは観ていて気持ちよかったです。

サスペンス、アクションの面で飽きが来たっていう懸念点は確かにあるんですけど、キャラクターの感情の掛け合いが面白くなり、途中から止まらなくなって一気に最終回まで観てしまいました。

いろいろなジャンルとしての側面があるけど、本質的にはアッシュと英二の国籍や育ちを越えた心のつながり、を主題に描いたドラマなんだと思います。残酷な世界で、彼らにとっては失うものも多かった物語でしたが、滅びの道でも「自由」を求めて進む登場人物の輝きを見せてくれた作品でした。
ちゃんと全話観てよかった。