その分現金でくださいよ。

他人の好意を台無しにするブログ

2023年6月振り返り

夏。暑すぎる。

 

映画

①ソフト/クワイエット

soft-quiet.com

いわゆるヘイトクライムを題材にした作品なのだが、まず目を引くのが全編ワンショットという形で作品が構成されていること。

流石に90分通しで撮影してるわけじゃないと思うけど、どうやって作っているんだろう…。

物珍しさだけでこの撮影手法を使っているわけではなくて、登場人物が日常で抱える様々な問題がシームレスに残虐な暴力行為に繋がっていることを浮き彫りにする役割を果たしていたと思う。やりたいことと手段が一貫している作品は見ていて気持ちがいい。

カメラの動きで特に印象的だったのは、作中で文章にするのもはばかられるような暴力行為がなされるシーン。それは流石にカメラに写らないんだけど、その大人の事情とあまりに凄惨な現状から目を背けたい登場人物の心情がリンクしていて感心した。

ストーリーについては、暴力の加速装置みたいなキャラクターが1人いて、物語の牽引力がそいつ1人にしか存在しないような状態(他の人たちは途中でやめたがっていた)だったのが気になる。

「普通の」人間の中にあるコンプレックスと差別感情が混ざってエスカレートした結果惨劇を引き起こす話がしたいんだろうに、明らかに異常な暴力性を持っている人間がいるのはどうなんだ…?とは思ったけど、作品全体を壊すほどではないから許容範囲ではあるか。

こういう作品はすぐパンフレットを買ってしまうんだけど、監督インタビューでの「人種差別や白人至上主義に関して容赦するよう促す映画や物語が支持されているのは、非常に残念なことです。」という一文が重かった。本作がそのような物語に対する強烈なカウンターであることは十二分に伝わってくるので…。

 

②怪物

gaga.ne.jp

公開の何カ月も前から映画館やYoutubeでずっと「怪物だーれだ。」という予告フレーズを聞き続け期待値を高めていたわけなのだが、結局怪物って何だったのだろう。

それぞれの登場人物が違う視点で同じ事象を見て、相手の視点を想像もしない。様々な方向から向けられる視点の、重なり合わない間隙にこそ怪物が生まれるのではないか。そう思わせる作品だった。

最終的に「流石にこいつとこいつは悪くね?」と思わせるような登場人物は存在するのだが、本作で起こった事件(?)の原因は誰かのせいにできるような類のものではなく、他者の視点を持てないことにあると思う。そのメッセージを、複数の登場人物の視点から描くことで逆説的に浮かび上がらせる構成が上手いなと思った。単純に作品にミステリ要素が混じって目が離せなくなったというのもある。

当然ながら演技も見事。方々で絶賛されている、湊と依里を演じた2人の子役ももちろんそうだし、メインキャストの全員がスクリーンから放つ引力が凄くて目が離せない。本当にみんな素晴らしかったんだけど、特に印象的だったのは(たぶん)ADHDの教師を演じた永山瑛太かなあ。近い立場で見た場合は純朴と表現すべき部分が、外から見たときには愚鈍にしか映らないギャップが素晴らしかった。あと校長先生役の田中裕子が怖すぎる。あの生気を感じられない表情は掛け値なしに怪物と呼んで差し支えないのでは…。

終盤の展開は『銀河鉄道の夜』っぽいなあと思ったけれど、そもそも『銀河鉄道の夜』の細かいストーリーを忘れていたので、本屋に行って文庫本を買って帰ったくらいにはこの作品に寄り添いたいと思える映画だった。天気を気にするようになるアニメはいいアニメみたいなもの。

欲を言えば、この作品がカンヌで何の賞を取ったか知らないままに観たかった。

賞を取ったこと自体がネタバレになるって、そんなことある???

 

アラビアのロレンス

eiga.com

前に観たのはヨルダン旅行に行こうと思い立った時だから、4年ぶりくらい?

かなり心酔してしまった作品なのでスクリーンで見られる機会は逃したくなかった。

そもそも美しく厳しい砂の原風景はずっと飽きずに観ていられる。加えて純粋にアラブに惹かれていただけのロレンスが暴力や死を目の当たりにしながら戦っていく中で苦悩し、壊れていく過程や、最終的には祖国であるイギリスからも、アラブからも必要とされなくなる激動と表現するのも生温いようなロレンスの生涯を追体験していると、人間1人の人生なんて本当に簡単に、自身にはコントロールできない力が働いてどうとでも変わってしまうのだという無常さを感じずにはいられない。

完全版では4時間弱というとんでもないボリュームの作品だけど、それだけの価値がある映像を見せてくれる作品だと思うし、やっぱり大好きな映画。たぶん折に触れてまた観るんだと思う。できれば映画館で。

 

ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会 NEXT SKY

www.lovelive-anime.jp

ラブライブよく分かりません、で通していたのになぜかニジガクだけ2期まで全部観て映画館にまで足を運んでしまっている…。曲がいいんですよね、曲が。

30分しかないOVAで13人もキャラがいるのにどんな話を展開するんだ?と少々不安に思っていたけれど、栞子と新キャラの子を重ねてみんながいれば自分の限界を越えられるって話にしたのは手堅くきたなという感じ。まさかの劇場版3部作も決定しているとのことだし、たぶん観ると思う。

それはそうと、新キャラのアイラが完全に東山奈央さん雇用枠みたいなキャラクターで声聞いた瞬間笑いそうになってしまった。

 

漫画

僕のヒーローアカデミア 38巻

今更ヒロアカについて書くのもどうなのよ、と思わなくもないけどこの38巻を読んでスタバでガチ泣きする30代になってしまったのも事実なので、さすがに特記しておく。

本作ではメインキャラのほぼ全員が何かしらの間違いを犯していて、それでも(主にはデクとの関わりを経て)前を向いて進もうとしている。そしてやらかしの筆頭たるエンデヴァーの台詞に代表されるように、今の彼らをちゃんと「見て」いる人がいるという構図が胸を熱くする。ジェントル・クリミナルが、レディ・ナガンが、変わるきっかけをくれたデクに報いようと必死で戦おうとするし、彼らの「今」を「見て」決断を後押ししてくれるキャラクターもいる。イナサは「今」のエンデヴァーを信じて戦うし、かつてヒーロー失格の烙印を押して命を奪おうとした飯田くんの成長をステインがちゃんと見ているというのも最高に熱くなるシーンだった。

エスカレートにエスカレートを重ねる最終決戦のテンションも相まって各キャラクターのドラマも最高潮を迎えていくこの38巻、涙を流さずにはいられないでしょう(自己弁護)。というか本当にヒロアカ終わってしまうんだな…。個人的には敵キャラクターも助ける、という話の方向になった手前、怒りや破壊衝動ではなく純粋に好意・嗜好で敵を傷つけるトガちゃんに対してお茶子がどんな答えを出してあげられるかに注目しているのだけど、どうなることやら。

 

②R15+じゃダメですか?

年間200本映画を観る女性声優のラジオを聴いていたら作者がゲスト出演していて、最初の15話が無料で試し読みできたからチェックしていただけなのに気付いたら次の週には全巻購入していた。きっかけが険しすぎる。

とにもかくにも作中に出てくる映画の幅が広くて驚かされる。

タイトルは知っているけれど内容は知らなかった作品、そもそも存在すら知らなかった作品などなど。自分もそこそこR-15指定の映画は見ている方だと思っていたけれど、毎話1作品がフィーチャーされる中でちゃんと観たことあるものは2作くらいしかなかったので若干悲しくなりつつ、面白そうだと思った作品は全部メモした。R-15って言っても色々あるんだな…(当たり前)

それだけだったらもはや映画レビューの本やブログを読めばいいだけなのだが、ラブコメとしても読み応えがある、というか率直に言って赤面ヒロインが性癖に刺さる(突然の開示)。3巻からテンプレZ世代みたいな新ヒロインが出てくるのだが、彼女の存在をきっかけに現代の娯楽における映画の立ち位置なんかについても考えさせられるし、やっぱり映画が本当に好きな人が真面目に書いた作品なんだろう。

 

小説

Another エピソードS

Another 2001(上)(下)

令和の鈍器本こと『Another 2001』がこの夏文庫本になったということで、7年ほど積読していた『エピソードS』と合わせて一気読みした。7年積読したのに読み始めたら3冊まとめて3日で読み終わってしまった。

僕がこの作品を好きな理由の6割、いや7割くらいは黒髪眼帯のミステリアスかつ儚げ美少女なのにまぁまぁいい性格をしている見崎鳴ちゃんの魅力にあるわけだが、「2001年だと時代が全然違うしメインキャラは総入れ替えなのかな~」と思っていたところ存外に鳴の出番が多い。というか終盤はほぼ鳴がメインといっても良いような構成で驚いた。その一方で鳴が"現象"によって普通に記憶が改変され、「半身」とまで呼んでいた美咲の名前すら忘れていたのはショックだった。彼女の特別性を信じていたというか、"死の色"が見えるという彼女は夜見山の"現象"にも負けないんじゃないかとどこかで思っていた節があったんだなと気付かされた。描写があからさまなおかげで物語のオチについてもある程度早い段階で当たりがつくんだけれど、本作では"死者"は誰かという謎解きよりも登場人物の描写に力が入っているように感じた。これだけ人が死んでいて何やねんという感じだけど、本作はかなり青春小説していると思う。主人公の想が鳴に向ける甘酸っぱい目線だったり、その想に想いを向ける葉住だったり(彼女の存在感が後半に向けて急速に消えていくのは何なんだ…)。等身大の中学生らしい感情が"災厄"という異常事態の中でもしっかり描かれているのが前作と比較してだいぶ新鮮だった。

冷静に多感な男子中学生が見崎鳴ちゃん(18)をぶつけられたら情緒が狂う。

本編のことではないけれど、文庫版の解説が綾辻作品をきっかけに作家を志したという辻村深月さんなのも個人的には注目ポイントで、物語を読み取る切り口や深さなど舌を巻くような内容で読み応えがあった。それこそ辻村さんの『傲慢と善良』の文庫版に寄せられた朝井リョウさんの解説も名文だと思ったし、いい書き手はやはりいい読み手でもあるんだな、と思う。

 

6月は色々観たり読んだりした方だと思われる。いちいち書いてないけど春アニメは好みの作品が多かったし、リョクシャカのツアーもあったし。

エンタメ摂取量が高めなのは満足ではあるのだが、その代償として本業のインプットが全然追いつかなくてヤブ医者一直線なのだけなんとかしたい。