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他人の好意を台無しにするブログ

ミッドサマー



家族を不慮の事故で失ったダニーは、大学で民俗学を研究する恋人や友人と共にスウェーデンの奥地で開かれる”90年に一度の祝祭”を訪れる。美しい花々が咲き乱れ、太陽が沈まないその村は、優しい住人が陽気に歌い踊る楽園のように思えた。しかし、次第に不穏な空気が漂い始め、ダニーの心はかき乱されていく。妄想、トラウマ、不安、恐怖……それは想像を絶する悪夢の始まりだった。

公開のちょっと前に存在を知って気になっていた映画。

頭が悪いので「想像を絶する悪夢」みたいな煽り文を付けられるとすぐ観に行ってしまうんですよね。

映画館に行って初めて「この映画『ヘレディタリー』と同じ監督じゃん!」ということに気が付きました。『ヘレディタリー』のストーリーがあまりハマれなくて世間での高評価ほど好きではないのですが、観てる側を不快・不安定な気持ちにするという、ホラーとして本質的に重要な部分に関しては申し分ない作品でした。これは『ミッドサマー』もろくでもない映画に間違いない(もちろん褒めています)、と謎に期待値が高まりました。

2時間20分とホラーとしては長めの尺でしたが、観て一番に思ったのは「暗闇で」「突然現れる」演出で観客を恐怖させるホラー映画のメインストリームに対する強烈なアンチテーゼだな、ということ。

ホラーやスリラーといった類の映画は好みのジャンルなので結構観ているのですが、基本的には暗い場所で突然何かしらが登場人物に襲い掛かることで恐怖を演出していて、それが極端になると「これは怖いんじゃなくて驚かせてるだけなんじゃないか?」という疑念がわいてきてしまいます。
呪怨』で布団をめくってみたら俊夫くんがこっち見てる有名なシーンがありますが、冷静に考えてみたらあんなの猫がいたって怖いじゃないですか。そういうことです。

『ミッドサマー』の舞台は白夜のスウェーデンでなのでそもそも暗闇のシーンはほぼ存在しないですし、突然何かが飛び出てきてびっくり!みたいなシーンも殆どない。
その代わり、映画のほぼ全編において明らかにヤバいカルト集団の不穏な祭りが繰り広げられる。うまく言語化するのが難しいのですが、観ている側をとにかく不安定な気持ちにさせる画面作りに余念がない。白夜による明るさも、時間感覚を失わせて独特な作品世界を作るのに一役買っています。
特にこれといった緩急がなくひたすら目が笑ってない(か異様にハイテンションな)村人たちの不気味な祭りが続くため、心休まるところがない。そして随所に生理的な嫌悪感を催すシーンが散りばめられているから苦虫を噛み潰したような顔をしてしまう。異物混入とか。

直接的なグロシーンとしては『ヘレディタリー』の妹の生首が転がっているカットを彷彿とさせるようなシーンが印象的でしたがこれは完全に監督の趣味なんだな、と納得しました。
本当に悪趣味だな…(褒めています)

ストーリーは大体の観客が予想する悪い予感が全部当たってしまう地獄のような展開。そんな王道いらないから…(褒めています)。完全に『ヘレディタリー』と似たようなオチになってるな…とは感じましたが。「安らぎ」を恋人のクリスチャンではなく共同体に求めたダニーの「選択」からのラストシーンは常人である僕は全くついていけませんでした…。まぁ狂ってしまったということなんでしょうけど。
余談ですが、ダニー役の女優さんの演技はメンヘラ感がうまく出ていて、気にしてるくせに気にしてないって全力で取り繕うところとかかなりポイント高かったですね。

総じて言うと本当に悪趣味の極みだなって感じの映画でした。重ねて言いますが褒めてます。

etmlじゃないですが、物語の面白さは観てる側に何かしらの感情を強く惹起させられるかどうかだというのが持論なので、口の中に無理やり虫を入れられたような不快感とはいえしっかり感情を沸き起こしてくる本作が良質なエンターテインメントであるのは間違いないと思いますし、画面の作り方という意味でこのジャンルに新しい風を吹き込んだ作品でもある。完全に名前を覚えたので、アリ・アスター監督の次回作にも期待したいです。