その分現金でくださいよ。

他人の好意を台無しにするブログ

ジョゼと虎と魚たち

 

ジョゼと虎と魚たち(通常版) [DVD]

ジョゼと虎と魚たち(通常版) [DVD]

  • 発売日: 2004/08/06
  • メディア: DVD
 

 同じタイトルの記事を3連続で書くという。

アニメ版→原作小説ときて、2003年に公開された実写映画版を鑑賞。

さりげに2021年初映画。

 

 田辺聖子の短編小説を犬童一心監督が実写映画化。妻夫木聡池脇千鶴が共演し、足の不自由な少女と平凡な大学生の切ない恋の行方を描く。ごく普通の大学生・恒夫がアルバイトする麻雀店では、近所に出没する謎の老婆の噂が話題となっていた。その老婆は決まって明け方に現れ、乳母車を押しているのだという。明け方、恒夫は坂道を下ってくる乳母車に遭遇。近寄って中を覗くと、そこには包丁を振り回すひとりの少女がいた。ジョゼと名乗るその少女は足が不自由で、祖母に乳母車を押してもらい散歩していたのだ。不思議な魅力を持つジョゼに惹かれた恒夫は、彼女の家をたびたび訪れるようになる。

原作の「恒夫との関係がいつか終わることと、それを予期しつつ受け入れているジョゼ」という描写を膨らませて1本の映画にしたのかなという印象。

平凡な大学生である恒夫がジョゼと出会い、恋に落ちるわけだけど、「障碍者の恋人と生き続けていくことの難しさ」の描写に重点が置かれているのかな、と思いました。

ジョゼの描写も祖母に「こわれもの」扱いされて乳母車に隠されていたり、恒夫と出会ったときに包丁を振り回したりとジョゼの描写も影の要素が多め。

あんま可愛くなかったです。

 

障碍者の描写として祖母を失って孤独になったジョゼが近所のおっさんに胸触らせてゴミ出ししてもらう描写が特に秀逸で、恒夫に福祉の人にやってもらえばいいじゃないかと問い詰められて「福祉の人は昼にしか来ない。ゴミ出しは朝だ」と返すのが、公的サービスがかゆいところに届いていない現実と、恒夫との認識のギャップを顕著に表している、普通に生きてたら「なんでそんなことでそこまで」って思うけど、当人からしたら生活に直結する問題。この視点は深い洞察を感じました。

こういうのが「健常者にはわからん」ってとこなんだろうな…

口では福祉系に進みたいと言っている上野樹里演じる後輩が、恒夫をジョゼに取られた瞬間生々しい憎悪を向けるようになったのも内心どう思ってたかが伝わってきて良かった。

 

結局恒夫はジョゼから離れていく(曰く「逃げた」)んですけど原作に「夫婦を名乗っているけど親にも挨拶していない」という描写がある中で、本作では「実家に挨拶に行こうとするけれど、ジョゼと生きていく重圧に気が引けて引き返す」という筋立てになっていたところが上手い。ジョゼを真剣に愛しているからこそ実家に連れて行こうとするところまで行ったけど…というのが嫌に現実的で切ない。

アニメは完全なハッピーエンドだったので、同じ原作から着想を得てもここまで違うんだな…とある意味感心しました。

 

本作はもう完全に現実の壁にぶち当たった結果の悲恋を描いた作品であって、アニメでの主題であった「逆境でも夢を追うことをあきらめない」エッセンスは原作含めまったくないんですよね。

アニメでの恒夫のバイトや夢、ジョゼの絵を描くみたいなビジュアル映えする設定もオリジナル着想だということが分かったし、媒体ごとの解釈の違いや表現の活かし方なんかを比較して観るのも楽しかった。

 

そういえばジョゼの施設時代の友達がホームセンターでおっさん殴り倒してたの完全スルーされてたけどそれでよかったのか…?