オーダーメイド殺人クラブ
クラスで上位の「リア充」女子グループに属する中学二年生の小林アン。死や猟奇的なものに惹かれる心を隠し、些細なことで激変する友達との関係に悩んでいる。家や教室に苛立ちと絶望を感じるアンは、冴えない「昆虫系」だが自分と似た美意識を感じる同級生の男子・徳川に、自分自身の殺害を依頼する。二人が「作る」事件の結末は――。
Twitterで『かがみの孤城』を読んで号泣していたフォロワーを見つけたので、「辻村深月作品で他になんかおすすめある?」と聞いてみたら推されたのが本作。
中二病全開の女の子が似たような趣味の男の子を見つけて自分自身の殺人計画を立てる……というあらすじだけでちょっと恥ずかしくなってしまったし実際読んでて共感性羞恥じみた感覚を覚えることも多々あったけど、勿論それだけの作品ではなかった。
読み始めてまず思ったのが主人公のアンちゃんが患っている「中二病」の解像度があまりにも高い。高すぎる。
『かがみの孤城』や『冷たい校舎の時は止まる』で強烈に感じ取ってはいましたが、辻村深月先生、思春期の女の子の繊細な心の動きとか、取り巻く環境を文章にトレースするのが上手すぎる。
嗜好だけでなく、自分は他のクラスメイトとは違うという自意識、特別な存在になりたいという願望、親や教師など周りの大人やクラスメイトを浅はかな人間だと心の中で若干見下してる様子も読んでてあいたたた…。となった。
今後中二病ってどんなの?って説明を求められることが今後あったら黙って本作を差し出すかもしれない。そんなレベル。
その一方で、些細なきっかけ、というかスクールカースト頂点の子の気分次第で動いてしまうクラスの趨勢に一喜一憂しちゃうし、それを気にせず中二病趣味に振り切れるほど自我を確立した女の子ではない。
そこらへんの不安定性がどうしようもなく思春期っぽくて、アンというキャラクターを魅力的に仕上げていたと思う。
そしてアンを取り巻く閉塞感の描写も上手い。
舞台が長野の片田舎っていうのもいい味出してるし、母親に教師にクラスメイト、全部がアンを縛って息苦しくしてるのがわかる。
こんな環境にいたらアンちゃん拗らせてもしょうがないかな…と思わんこともないけどやっぱ拗らせ過ぎだわ。
個人的には、今考えたらどう考えてもおばさんなのに女性教師が男子に可愛いって持て囃されてるやつは自分の中高時代を思い出してグサッと来てしまった。
あの時クラスの女の子には冷ややかな目で見られてたんだろうな……。
で、やたらと流血沙汰に詳しい陰キャクラスメイトの徳川くんと『事件』を起こすための計画を始める。
アンも徳川くんもどうしようもなく拗らせちゃってるし、2人の関係性もどうあがいても健全とは言い難い歪んだものではあるんだけど、お互いにとって特別な時間を共有してるのは確かで、めちゃくちゃ青春してるなあと思った。
新幹線で東京の撮影スタジオに2人で行くのとか実質デートじゃないですか?
行きも帰りも座席は離れてたし中で首絞めたりしてますけどね。
徳川くんも本当に何考えてるか分からないキャラクターだったけど、終盤で明かされた事実で見方が大きく変わった。もしかしてあれも、あれもそういうことなの?と最初から読み直したくなったし、こいつはどんだけ不器用なんだ…と愛着がわいてしまった。はちゃめちゃに拗らせ歪んだ思考をしてるくせにアンちゃんへの想いだけ真っ直ぐすぎるだろ。ノートに描き続けた絵とか、どういう気持ちで描いていたんだろう。
全体のテーマとして若さゆえの視野狭窄は間違いなくあると思っていて、そこを強調するに当たって語りがアンの一人称である事がかなり効いていた。だからこそ、エピローグでアンが少し大人になって、自分以外にも目を向けられるようになって、あの時気付けなかったことに考えが及ぶようになっていることがとても微笑ましかった。
「事件」をやり損ねた日から高校卒業までの描写がやたらあっさりしてたのも、それだけ徳川くんと過ごした日々の濃度が高かったんだと思わされる。
何年も経たなきゃ認められないなんてどうかしてるけど、あいつは私の友達で、私はあいつの友達だ。そのことを、誇りに思う。
この一文が好きで、1回読了した後エピローグを何回も読み返した。
言ってしまえば中二病の女の子が1人の人間と友達になるために1作まるまる費やした、どうしようもなくめんどくさい小説なんだけど、そのめんどくささや回り道がすごく青春っぽいなあ、と思ってしまった。甘酸っぱいとは間違っても言えないけど、それでも青春。
このタイトルとこのあらすじでここまで爽やかなエンドになるとは想像もしていなくて割と胸を打たれたし。
自分が中高生の時に本作を読んでたらこの拗らせきったキャラクター達に嫌悪感を抱いていたか、逆に共感しきって自分の人生もこれ以上拗らせていた可能性がある。
アラサーの立場から読むと、割と素直にアンも徳川くんも可愛いやつだな…と思えたので、まぁ今のタイミングで読めたのも悪くはなかったかな。
自分1人だったら絶対に手に取ることのないタイプの作品だったので、本作を勧めてくれた友人にも感謝です。