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他人の好意を台無しにするブログ

劇場版 SHIROBAKO

アニメ版から5年以上経っているという事実にまず衝撃を受けつつ観てきました。

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 アニメーション業界の日常や実情、実態を描いて話題を集めたテレビアニメ「SHIROBAKO」の完全新作劇場版。監督は「ガールズ&パンツァー」などの人気作を手がける水島努。いつか必ず一緒にアニメーション作品を作ろうと約束した、上山高校アニメーション同好会の5人。卒業後、アニメ制作会社「武蔵野アニメーション」の制作進行として働く宮森あおいをはじめ、アニメーター、声優、3Dクリエイター、脚本家など、5人はそれぞれの場所や役割でアニメーション制作に携わり、「第三飛行少女隊」で夢に一歩近づくことができた。アニメーションの世界に自分たちの居場所を見つけ、少しだけ成長した5人の前に、新たな苦悩や試練が立ちはだかる。

 

舞台はTV版の4年後。みゃーもり、アラサーじゃん。

 

4年経てばいろいろと変わるもので、ムサニは潰れかかって社屋が植物まみれになって(ヘルヘイムの浸食かよ)、社長も変わって、社員はだいぶ減って、TV版であんなに頑張って作った「三女」は「あの」タイタニック元請で続編が制作されとんでもないゴミアニメになっている、とTV版のあの希望に満ちた終わりはどうした?ってくらいマイナス方向の変化が起こっていて序盤からショッキング。

 

特に三女の続編は悪い意味で凄まじいものでした。あんだけアニメに口出してきた野亀先生はどこにいったんだ?やる気なくしてヒューマギアに漫画描かせてるのか?

 

主役の女の子5人も4年経てば状況が変わり、みゃーもりは仕事が減り、具体的に何がしたいのかはハッキリしないまま。ずかちゃんは顔出しでそこそこ売れてるけど自分のやりたいこととのズレを感じ、みーちゃんは後輩の指導に苦戦してたりとそれぞれ壁にぶつかっている。

 

TV版では一番バリバリ働いてたみゃーもりが他の4人に置いてかれてるような引け目を感じて松亭の飲み会で居づらそうにしてるシーンは特に見ていて辛いものがありました。

 

前半でキャラクター達に割と重めの負荷をかけた話の作りをすることで、みゃーもりたちが「好き」をモチベーションに突っ走ってればいい時期は過ぎたんだってことが感じられて、この作品はちゃんと「4年後の彼女たちの物語」なんだっていう説得力がありました。

 

みゃーもりがカレー屋で元社長と話すシーンが象徴的だと思うんですが、「好き」という気持ちだけで続けてもいつか限界が来るし、20代も折り返しにきている彼女たちは作り手として、社会人として「1番下で、目の前のことだけやってればいい」段階は過ぎているんですよね。もっと高い目線から仕事について、アニメについて考えなければいけない時期に来ている。

 

自分が彼女たちと同世代(といいつつ僕が仕事を始めたのは20代半ばくらいなので今も普通に下っ端ですが)なのでこういう「仕事を続けていく上での立ち止まり」は共感する部分がありました。アラサーに刺さる映画だと思います。

この問題提起に対して、「今」のみゃーもり達がどういう結論を出すのか、どうアニメを作るのかを楽しみに観ていました。

 

…なんて思っていたら後半はTV版と変わらない感じになって完全に肩透かしを食らった感。

 

『タイマス』がポシャってバラバラになった面々が「またムサニでアニメが作りたい」という気持ちのもとに再集結するのは確かに熱いし、エンターテイメントとしては間違いなく面白かったし、そもそもこの作品はそういう作品なのは間違いないんですよね。

 

それでも後半はどうしても本編をなぞってる感じがしたのは否めなくて、みゃーもりと新キャラの宮井さんがげーぺーうーに乗り込んでいくところなんてまんまTV本編で(木下監督が)同じことやってましたし、スケジュールはギリギリなのに監督のこだわりに沿ったクオリティのブラッシュアップをするかしないか…というのも既視感がある。

 

TV版と同じノリのものを劇場版クオリティで作り上げる、それ自体は全く問題ないと思うのですが、「じゃあ前半の描写はなんだったの?」と思ってしまったのは事実。

 

「明日がどうなるかわからないけど、がむしゃらに進んでいくしかない」という結論は、回答としてはストレートでもちろん美しいと思いますし、同じような結論の作品で好きな作品はたくさんあります。

でもそれはTV版からずっとやってたことであって。

 

TV版をなぞったような流れも言い方を変えれば良質なファンサービスであって間違いなく面白かったんですけど、「4年経った今でもそれでいいの?」っていう疑問に対して「今」のみゃーもり達が答えを出すかのような前半とはちょっと乖離があったんじゃないかなあ、と思いました。

勿論このアニメで急に現実路線に走って置きのアニメ制作をするみゃーもりなんて観たくないですが。

 

勿論面白いなあ、同意できるとか思った箇所もたくさんあって、例えば途中しめじ師匠とりーちゃんがキャッチボールするシーンで出てきた「観ている人に伝わらないと意味がない」という話は良かったな、と思いました。

作品にも色々あって、作り手が作りたい映像表現をとことん追求するタイプの作品ももちろんアリだとは思います(あんな映画とかこんな映画とか)が、やっぱり受け手の僕個人としては、作り手が伝えたいメッセージを表現技法フル活用して直球で届けてくれるような作品が好きなので、このシーンで作り手側の考えを出してくれたのが単純に嬉しかったです。

りーちゃんが投げる球は決まってますよね?って観客に投げかけるかのようにそのままカットが終わる演出も良かった。

 

TV版からの変化、という意味では4年経って(主にタイマス事変で)モチベーションが落ちてるキャラも多かった中、TV版では常に不機嫌な顔をしていた平岡くんが映画では全編通していい表情をしてたのは印象的でした。

この映画でみゃーもり達が対面したような理想と現実のギャップなんかを彼はもう本編の時点で経験済みだから、もうブレずにやりたいことに向かっていけてるし、みゃーもりにアドバイスもできる。強いキャラクターになったなあと思いました。

タローというバカみたいに大言壮語を語るキャラクターと一緒にいるからこそ、平岡くんもまた青臭い夢を真面目に追いかけられるっていう2人のコンビも素敵ですよね。2人とも最初出てきたときは「なんやねんこいつ…」みたいなキャラの筆頭だったのでここまで好感の持てるコンビになったのは本当に面白いな、と思います。

この作品、ただただ不快なだけのキャラクターも散見されるので余計に…

 

何だかんだと言ってきましたが、観ていて楽しい映画なのは間違いなかったです。納品が本当にギリギリだったみたいな話も流れてきましたが万策尽きなくてほんと良かったですね。

 

そして何より作中に僕の好きな『Another』と『色づく』のポスターが出てきたので評価は+50000点です。

 

台無し。