その分現金でくださいよ。

他人の好意を台無しにするブログ

ラッキー

 

ラッキー(字幕版)

ラッキー(字幕版)

  • 発売日: 2018/12/05
  • メディア: Prime Video
 

 神など信じずに生きてきた90歳のラッキーは、今日もひとりで住むアパートで目を覚まし、コーヒーを飲みタバコをふかす。いつものバーでブラッディ・マリアを飲み、馴染み客たちと過ごす。そんな毎日の中でふと、人生の終わりが近づいていることを思い知らされた彼は、「死」について考え始める。子供の頃怖かった暗闇、去っていった100歳の亀、“エサ”として売られるコオロギ  小さな町の、風変わりな人々との会話の中で、ラッキーは「それ」を悟っていく。

アメリカの田舎町を舞台に、90歳になって初めて自分の「死」を自覚した老人の物語が描かれた作品。

かといって特に特別な事件が起こるわけでもなく、あくまでいつもの日常が続く。その中で主人公のラッキーが自分にいつか訪れるであろう「死」を意識していく。

特に動物を引き取ってほしいというお願いを断るシーンは「死」をそう遠くないものととらえていることが伝わってきて真実味がありました。

"the attitude or practice of accepting a situation as it is and being prepared to deal with it accordingly"

というのは作中で複数回出てくる"realism"の定義ですが、最終的にはこの言葉通りに、死は誰にも訪れ、その後は無である、ということを受容した上で微笑みを見せるようになる。

自分の人生を見つめ直すラッキーに優しいまなざしを向ける街の人々の描写も印象的だったし、正直すごく地味な映画なんですけど、静かな温かさが画面から伝わってくる作品でした。荒々しい山肌を望む街や、星空など風景のカットが美しかったのも好き。

 

映画を観ているときはとくに意識していなかったのですが、この映画は主演のハリー・ディーン・スタントンに当て書きした作品で、彼の遺作になっているそう。

後からみてみたらラッキーの経歴なんてそのまんまだし、本作でラッキーが行きついた結論も演者本人の人生哲学と深く結びついているようです。

そういう背景を知ると、タイトルクレジットの「Harry Dean Stanton is LUCKY」の意味も違って見えるなあ、と思いました。

フィクションではない人間の死に変に意味を持たせるのはあまり好きじゃないですが、60年以上の役者人生の最後がこういった作品になるのは、「ラッキー」といっていいんじゃないでしょうか。