その分現金でくださいよ。

他人の好意を台無しにするブログ

十二人の怒れる男



前々から気になっていた作品であり、創作物に関しては信頼のおける友人が信頼のおける文脈でお勧めしていたので観てみました。
アマプラで購入すらできずネトフリにもなかったので2年ぶりくらいにDVDレンタルなるものをしました。あまりにも使わなすぎてTカードの会員期限が切れていた。


父親殺しの嫌疑をかけられた少年を有罪とするかどうかについて12人の陪審員が審議するという話で、ほぼ全編がその評議室内のシーンで占められている。これがまず凄い。他の映画だったら真相はどうだったのか、とかミスリードみたいなシーンを挟んで観てる側に登場人物は知りようのない情報を与えたりするものですが、そういうシーンは一切ない。
この要素があることで登場人物の議論に同じ目線で参加することが出来るし、「実際誰が殺したのか」というミステリ的結末よりも「実際にやったのか疑問の余地がある人物に有罪判決を下してよいのか」という問題にフォーカスが当てられている。最初唯一無罪に投票した8番も被告の無罪を信じていたわけではない点や作中の論理もだいぶ怪しい点なんかを観ても「疑わしきは罰せず」という基本理念に真摯に作られた作品だな、と思います。陪審員が以前観た映画の細かい内容を覚えてないことと被告が親に殴られた直後に観た映画のタイトルすら忘れていたことになんの関係があるんだ、と思いましたが、大事なのは「疑問の余地がある」ことなんですよね。映画全部観ても「普通にこいつが殺したんじゃないの?」って思う部分もあるんですけど、そこは恐らくこの映画の本質じゃないんだろうな、と。

最初の段階でまともな議論をする気がなかった人々ばかり。偏見や私情を評議の場に持ち込んで最初から結論が決まりきってる奴だったり、野球の試合が観たいからという理由でなんでもいいから早く終わらせたい奴など色々いましたが、8番の人が疑問を投げかけたことをきっかけに全員がこの問題について真剣に考え始めていく過程は観ていて引き込まれるもので、最初はソファに寝っ転がって観ていた僕もいつのまにか前のめりになって画面を注視していました。
最初から結論ありきの確証性バイアスの権化のような登場人物(ついでに他人と会話する最低レベルの品性も欠けている)と対話できたのは映画だからだろ…と思いましたが。現実にもそういう人いますけど、絶対に話通じないからまともな対話をしようとすること自体が無駄ですからね。8番は本当に偉い。

エンタメ的にも面白かったですし、法廷ものとしても他者との対話について考える上でも示唆に富む内容で、2020年でも十分通じる映画だな、と思いました。真面目なトーンで勧めてくるだけありますね。