かがみの孤城
あなたを、助けたい。
学校での居場所をなくし、閉じこもっていたこころの目の前で、ある日突然部屋の鏡が光り始めた。輝く鏡をくぐり抜けた先にあったのは、城のような不思議な建物。そこにはちょうどこころと似た境遇の7人が集められていた―― なぜこの7人が、なぜこの場所に。すべてが明らかになるとき、驚きとともに大きな感動に包まれる。 生きづらさを感じているすべての人に贈る物語。
花守ゆみりさんが出演されているのでオーディオブックを聴くよう友人から勧められていたのをなんやかんやスルーしてしまっていたのですが、いつのまにか文庫版が出版されていたので手に取ってみることに。
ページをめくり始めてまず目に止まったのは主人公・こころの心情描写。
中学1年生の目線で語られる1人称小説なので、地の文はそれに合わせた語彙や表現になっているけど、その分こころの等身大の感情が伝わってくるのが良いな、と思いました。
序盤の母親の関係性だったり、他の子供たちとの距離感を掴めず、一喜一憂してしまうところも思春期らしい繊細さがあって、コミュニケーションに不器用なこころというキャラが凄く掴みやすかった。
特にフウカへのプレゼントを買うためにショッピングモールに行こうとするシーンの印象が強かったです。家の外に出て少し買い物をするだけ、それだけでも周囲が全て自分を害するものに思えてしまい、結局目的は達成できないまま終わる。
それ程までにこころが追い詰められ、傷付いていたことが文章から伝わってきて胸が痛くなるような場面でした。
中盤でこころたち7人が同じ中学校の生徒だと判明してから、さらに…という展開は『君の名は。』を観ていたので正直なんとなく予想できていましたが、その後畳みかけられるように明かされる"オオカミさま"の正体、そしてこころ達複数の登場人物の心の支えとなった喜多嶋先生の目線で語られるエピローグ…と連続で驚かされてしまいました。
"オオカミさま"が弟であるリオンのためにとったある種エゴともとれる行動が、結果として7人全員の心に大切なものを残したというのも恩着せがましくなくて良いし、城では身勝手な行動で他のメンバーを危険に晒してしまったアキが、実は他の子どもたちの心の支えになっていた…という想いの繋がりが最後の最後で心を暖かくしてくれる。
スバルがマサムネのついた嘘を嘘じゃなくするためにゲームを作る人になる、と宣言したのも良かった。記憶や時代といった普通は超えることのできない壁を超越する人との絆を描いたフィクションはかなり好きな部類ですね。
この時のスバルがカッコ良すぎるし、マサムネじゃなくても泣くわ。
自分が過去の人間関係を喪失しがちな反動かもしれないけど。
それぞれの事情を抱え、学校という社会に馴染めなかったこころたち7人が不器用ながらも育んでいった絆が綺麗なラストに繋がった作品でした。それぞれの時代で、記憶がなくなってしまっても、大切な想いは前を向いて生きる力になるというのもメッセージとして美しい。
でも1年間城の中でほぼほぼゲームしてたってのはどーなのよ。