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他人の好意を台無しにするブログ

どくしょかんそうぶん

皆様ゴールデンウィークはいかがお過ごしでしょうか。

僕はというと、ひたすら小説を読んでいました。

去年から作家単位で追いかけていて、ちょこちょこ作品を読ませてもらっている辻村深月さん。

先日本屋でこちらを見つけて購入して流し読みしていると、今まで刊行された39作それぞれについてのショートインタビューを見つけて「初期の作品、全然読んでないな…」ということに気付いたので、未読の作品を少しずつ読んでいこうと思いました。連休中どうせ外出もしないし。

10代の時と比べると読書というか、活字に対する集中力がだいぶ落ちたなという自覚はあるのだけれど、それでも面白い小説に出会うと夜中3時やら4時までページをめくる手が(Kindleだけど)止まらなかったりするし、自分が30歳になっても小説に没頭できる人間であることは少しありがたく感じました。

で、今回はその感想の書き殴りです。

 

『冷たい校舎の時は止まる』に続く2作目。その『冷たい校舎~』を読んだときにも感じたことだけど、自分が直近の作品から入ったからか全体的に粗削りな印象はどうしても拭えなかった。小説内で起こるだいたいのことは受容する性質だけど、少なくとも2年以上の付き合いがあるのに狐塚と月子が兄妹なのに気付かないのは流石に…と思ってしまった。その勘違いに起因する拗らせが浅葱の行動に繋がってしまった分余計に…。

まぁこれを高校生の頃に書いてたって考えると凄すぎるけれど。月子と紫乃の歪な関係性とか、ちょっとしたことで壊れてしまいそうな人間関係を描くのは本当に上手いなって思う。

内容とは全く関係がないけど、表紙イラストが可愛らしいタッチなのに憂いをたたえた表情ですごく心魅かれるものがある。上巻と下巻で「闇」と「光」になってるのも面白い。

見た目的には多分月子だと思うんだけど、こんなイメージのキャラクターなのか…?

 

『子どもたちは夜と遊ぶ』に出てきた秋山先生がメインキャラクターとして登場していた。『子どもたちは~』では結局明かされず「そういえばなんだったんだあれ?」となった部分がこちらで回収されていく。流石に特殊能力だとは思わなかったけど、こういうちょっとした超能力で何かに立ち向かっていく話は伊坂幸太郎の『魔王』を思い出して懐かしく思ったり。

「ぼく」と秋山先生の会話がまた示唆に富むもので、悪意や復讐、正しさといったことについてこちらも考えさせられる。主人公が小学生とは到底思えない。嘘ついて能力の実験したりそもそも言う予定の条件提示すら嘘だったりと、この子あまりに賢すぎるでしょう。あとうさぎを殺した医学生の描写がほんまにカスすぎたのも凄い。「いつかの自分と同じように飴を舐めているのかな」→「ガムを噛んでいる」が悪辣すぎて少し笑ってしまった。

一冊まるまる超能力の話をしておきながら、ふみちゃんの心を動かしたのは能力じゃなくて純粋な気持ちだったことを仄めかして終わったのがすごく晴れやかな読後感に繋がっていた。なんやかんや言って人を動かすのは純粋な気持ちなんだということを信じたくなる。

あとめっちゃ「ダイナソルジャー」って単語が出てくるから『SSSS.DYNAZENON』を連想してしまう。偶然だろうけど。

序盤で、環が彼氏と別れた記念パーティーの描写から滲み出る雰囲気が微笑ましかったのでこのまま関係性崩れないでくれ…と思っていたけどさすがにそれでは小説にならないし、無理な注文だった。あのサークラ女さえ来なければ…。

登場人物みんながそれぞれ拗らせてたりダメなところがあって、そこが読んでいて愛らしい。この不器用さがクリエイターっぽいのかなと。群像劇としてどこを切り取っても楽しく読める作品だった。

作者自身もインタビューなんかで語ってるけど「物語に救われたり、支えられたりした経験」への暖かい眼差しが感じられるのは好きな点。

その対極にいたのがサークラ女こと莉々亜ちゃんで、フィクションの価値を軽視していて、そのくせ自己顕示欲のために嘘までついて周りで起きる悲劇をファッションのようにオンデマンドで消費する困ったちゃん。そんな莉々亜ちゃんと環が対峙する場面が物語の一つの山場だったし、やっぱり印象的だった。

 

作中から漂う青春感が眩しい作品だった。

「未来に起こる誰かの自殺を止める」っていう目的のもとに動いているからやや不謹慎かもしれないけど、高校生がひとつの目的のもとに集まって悪意に立ち向かったり、自分のできないことと向き合ったりするのはやっぱり青春でしょう。本当に楽しそうだったから普通に羨ましかった。また青春コンプレックスが刺激されてしまった…。

いじめの描写があまりにも真に迫っていたから、実は語られたことほぼ全部が仕込みでしたってネタばらしされてもほんまか???と思ってしまったけれど。

青春小説+少し不思議なエッセンス、っていう物語の作り自体は頻出だし、辻村作品でその仕組みが明確に説明されることもないので、いつかが3ヶ月後の未来から飛んで来たって言う設定はそういうもんなんだろうな…と思ってたけどそこをエピローグでしっかりひっくり返して来たのも読んでいて気持ち良かった。秋山先生っぽい人出てたから何かしら絡んでくるのかな…とは予想していたけれどまさかそもそも物語のきっかけから「そう」だったとは。流石に本作は過去作を読んでいるかいないかで終章から得られるカタルシスに大幅な差が出そうなので、今後もできるだけ刊行順に読んでいこう…。と思わせてくれた。

 

…とまあこんな感じでずっと本を読んでたら連休が終わってしまった。アニメ観たり映画観に行ったりもしてたけど、間違いなく小説を読んでいる時間が一番長かった。

同じ作家の小説を連続で読んでいると見えてくるものもあって、作品を越えた登場人物のリンクも勿論そうなのだけれど(繰り返すが、本当に刊行順ベースに読んだ方がいいのだと言うことには気付いた)、根底に共通するテーマという点で。


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生きるにあたって他者と交わることは必須なのだけど、それは「自分のため」というエゴでもある。ただ、都合よく他者を消費することあってはならない。

という風に「自分」と「他人」をどう関わらせるか、関わっていくかという話が今回読んだ全作品で触れられていたように思った。「愛」の話はめっちゃ出てきたし。

 

特に初期の辻村作品、もう少し若い時分(2000年代後半あたりが一番熱心に小説を読んでいた時期だと思うので、尚更)に読んでいたら人生また違ったルートに進んでいたのかな…と思わないこともないけれど、この歳になったからこそ感じる魅力というのも間違いなくあるのでどっちもどっちかな。

少なくとも少し年を取ったくらいで「抜ける」ような作家さんではないと思う。6月30日に新刊が出るらしいので、それまでに未読の既刊を少しずつ読み進めていければ。

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