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他人の好意を台無しにするブログ

異世界チート魔術師

2020年の元日に、「有識者」の助言のもと「異世界始め」なる行事を行いました。

そこで課題作品となったのが『異世界チート魔術師』です。


どこにでもいる普通の高校生・西村太一と、
運動神経抜群でモデル体型の美少女・吾妻凛。
平和な高校生活を送っていた二人はある日突然、
不思議な魔法陣の光に包まれ、見知らぬ土地へ迷い込んでしまう。
そこは恐ろしい魔物が生息し、獣人やドワーフ、エルフといった
多様な種族が存在する、まるでファンタジーのような世界。
異世界へと導かれた太一と凛は、
ここで生き抜くために「冒険者」になることを決意するが、
その適性検査で、二人が“チート”な魔力を持っていることが判明して……。

という典型的ななろうアニメですね。
登場人物の名前変えるだけで軽く10作品くらいのあらすじに互換性がありそう。

やけに偏った星空、空中での平行移動、チートチートと連呼してイキる割には他の強キャラとどこが変わらないのかよくわからない主人公などを観て2人で笑いながら観ていましたが7話(ここが一番凄かった)を越えたあたりで限界を迎え、意識が飛んでしまいました。
しかし「有識者」に絶対に全部見てくださいね、と念を押されてしまったので、残り5話(寝落ちした8話の再視聴も命じられました)を1人で観ることになりました。
1人だとチープな表現を笑い飛ばすこともできない。ここからが本番。
「チートを、甘く見んなよ!」という太一くんの言葉の意味を「心」で理解できました。
10話なんて7話に負けず劣らず突っ込みどころしかない内容だったのですが、誰とも共有できず、ただ一人テレビを眺めるしか出来なかったのが無念でなりません。

真面目な感想を述べると、作画がアレとか技名がダサいとか頭脳派登場人物のやってることがバカ丸出しとかそういうことをあげつらうとキリがないのですが、世界観があまりにチープすぎてどう頑張っても物語に入り込めないのが最大の問題かなと。

物語に人を入り込ませるために尽力すべき重要な点に「作中世界観の構築」があると個人的には思います。
現実と変わらない世界だけでなく、魔法がある世界、幽霊がいる世界、カードゲームの勝敗で生死が決まる世界といった「現実ではありえない世界」に説得力を持たせることで、観る側は作品の世界に入っていけると思うんですよね。全てのフィクションは異世界ものと言えるかもしれない。
その作品の「世界」がしっかりしているからこそ、その中で生きるキャラクターの選択や生き様を観て心動かされるのだし、世界観は作品の骨格と言ってもいいかと思います。
残念ながらこの作品の「世界」にはそれを感じない。
登場人物の名前だけ変えたら他の作品のあらすじとして成立しそうっていう言葉通りで、「異世界転生」「ファンタジーのような世界」「冒険者」「チート」みたいな(こういう作品を観る層の)共通認識頼りに世界観を構築してる感じ。
「この作品」の世界観は全く見えてこないし、このツギハギみたいな世界観の中で主人公がどんだけ良いこと言っても説得力がない。まぁ太一くんは特に何もいいこと言ってないですが…。

基本的に太一くんが無双する作品なのに無駄にシリアスな展開を用意するせいで、内戦で結構な数の人が死んでるのに主人公一行は割とドヤ顔でヘラヘラしている、歪な展開になってるのもちょっと…
こんなことにするくらいならハーレムでも作ってたほうがまだマシのような。
結局ここも世界観の問題で、根本的に世界観がチープだから戦争の悲惨さとか全く伝わってこないんですよね。7話はヒロイン格のキャラが死んだんですけどあまりの雑さに何の感情もわきませんでした。
あくまで創作物なので登場人物の生き死にも物語のパーツの1つ、だとは思うのですがそのパーツにすらなり切れていないのはどうなんだ…と思ってしまう。
人が死ぬ作品=命を軽く描いているではないと思いますが、この作品の描き方はどう考えても軽い。

昨今「異世界転生もの」が人気であり、アニメは毎クール異世界転生、川越の書店ですら異世界コーナーが作られている空前の異世界ブームにあって、僕はあまりこのジャンルが好きになれない社会不適合者なのですが、その理由がここにあるんですよね。
どうしても「異世界転生」という借り物テンプレ世界観のチープさが受け付けない。
奇しくも今期アニメ『映像研には手を出すな!』の第1話で主人公が「私の考えた最強の世界」を表現したいと言っていましたがまさにその通りで、最強のメアリー・スーみたいな主人公を活躍させたいならそれに見合った世界も作ってほしいんですよね。
あまりにもキャラクター、もっと言うとその属性先行というのはあまり僕の作品観には合わないかな…。

ちなみに異世界転生が苦手なもう1つの理由として、なぜか選りすぐりのチープな異世界転生作品ばっかり観る機会に(不必要に)恵まれた結果、完全にバイアスの塊になってしまったことがあるかと思いますので、これは面白いよっていう異世界転生ものがありましたら是非教えてください。