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他人の好意を台無しにするブログ

ハーモニー











1年ちょい前に初めて読んで衝撃を受けた作品。
映画版を観たので、いい機会だと思って原作も再読しました。

まず凄いのが、個人個人の生命が社会的リソースとして何よりも重要視され、健康を脅かすあらゆるものが排除された世界の描写。あらゆる病気が排除され、痛みや苦しみを実感することもない世界がまるで本当に未来がそうなってもおかしくないような現実感を伴って描写されている。

基本的に病気にならないし100歳くらいまでそこそこ若い見た目で生きられるし、一見ユートピアに思える社会なのですが、その世界に居心地の悪さを感じていた3人の少女の描写を挟むことでその社会の「気持ち悪さ」を実感できる構成が上手いなあと思います。

その世界の中で「自分」を「自分」と言える線引きはどこなのか、なんとなくそれは「意識」だとか「心」みたいなものを答えとしがちだけど本当にそうなのか?という命題がストーリーの中で重要な対立項になっていくのですが、主人公のトァンがミァハや父に抱く愛憎、生命主義の世界で起こる地球規模の大事件の行方など、エンターテインメント要素も非常に読み応えがある。病床で執筆し、34歳で亡くなってしまった作者の「命」や「自己」に関する思索が存分に組み込まれているとは思うのですが、ただ単に作者の思案に触れるだけで終わらず、あらゆる面からいろいろな読み方、楽しみ方ができる。小説の面白さが詰め込まれた傑作だと思います。

そして最終章は文字媒体であるということを存分に活かした仕掛けがなされており、初めて読んだときはしばらく口開けたままぽかーんとしていました。本当に印象的なラスト。
漫画でもアニメでも実写でも、媒体の特徴を有効に使った演出が大好きなのでこれだけでめちゃくちゃ評価が上がってしまう。未読の方は是非読んで確かめてほしいです。

映画版は概ねストーリーは劇場版に沿っているのですが、WatchMeやオーグが何をしているのか、この社会はどのような社会か、という描写がかなり省かれて、キャラクターの動きに主軸が寄っているので僕が原作を読んで圧倒された作品世界についてはあまり伝わってこないかな、という印象。
最後のシーンに関しても一応やってはいるのですが原作読んでないと意味が伝わらないような…映像化って難しいですね。あとトァンはミァハに「愛してる」とか言わない(過激派の意見)。
トァンが沢城みゆきさんでミァハが上田麗奈さんというキャスティングはめちゃくちゃイメージに合ってるのでこの2人の会話は聞いていて心地よかったです。

ただ、原作を2回読んで映画を観てもミァハがなんであの思想を抱くに至ったのか自分のなかで納得できてないんですよね。
回想に出てくる過去のミァハと目指してることが真逆というか。
「実験」でコペルニクス展回が起こったという風に読めると思いますが、そんな簡単に考えが変わる人物にも思えない。最初から読み直すべき?